2025年3月11日
令和6年度 多彩な沖縄食体験創出事業「美食王国おきなわ」の事例発表会を琉球調理製菓専門学校にて開催しました。
沖縄へ来訪する観光客の「食」に関する期待度が高い一方、十分な満足感を獲得できていないという現在の課題に対して、沖縄の食のポテンシャルを今一度確認し、多彩な食体験の提供を通し消費を促すことを目的に、域内における経済循環の促進、食に対する満足度を向上させていくことにアプローチをしてきた一年でした。高付加価値な食体験創出および沖縄ガストロノミーの実現を目指し、取り組みを進めてきた今年度の事例発表会です。
はじめに、沖縄県商工労働部グローバルマーケット戦略課戦略推進班 班長 喜屋武敦さんよりご挨拶です。
「沖縄食体験創出事業の本日の事例発表会・交流会を通じ、沖縄の食体験についてより理解を深めることで、参加者の皆様にはより多くの方に沖縄の食体験について伝えていただきたい。また生産者、料理人、食や文化に携わる方々がつながり、ネットワークを強くしていくことで、沖縄の食の価値が高まっていくことを期待したい」とお話しされました。
次に、本事業の事務局である株式会社ブレーン沖縄 兼島真弓さんから多彩な沖縄食体験創出事業の目的と目指すゴール、今年度行った取り組みの概要について報告を行いました。
続いて今年度、ともに活動いただきました方々が登壇し、事例についてより詳しく発表してくださいました。
トップバッターは、株式会社GHIBLI 代表取締役/SENDANMARU 代表 坪内知佳さん。
「発想を変え、新しいことに挑戦するには」というテーマで、沖縄もずくの価値向上とその取り組みについてお話くださいました。
漁師たちと出会い、まったく知見のなかった漁業の世界に飛び込み、業界に革命を起こしたテレビドラマ「ファーストペンギン!」の主人公モデルになった坪内さんから、しがらみだらけの現場で、どう漁師たちと協業し、採算性を高めていったのか、6次産業化への取り組みをVTRを交えてお話しいただきました。
テレビドラマを観て「自分たちのもずく漁活性化にはこれしかない」と坪内さんの門戸を粘り強く叩き、現在、うるま市勝連でもずくの価値向上に取り組んでいる、沖縄うるま船団長漁師 東卓弥さん。
これまでのもずく漁の仕事は、もずくを育てて収穫して終わりでしたが、現在は、漁から上がると漁獲から6時間以内のものを塩蔵せずパックに詰め、もずくが生きた新鮮な状態で皆様の元へお届けする郵送作業まで行っています。その他、商品開発、値付け、販路開拓まで一気通貫で自分たちで行うという、今までやったことのない取り組みを始めてから一年が経過。発表会が行われたこの日は、まさにもずくの収穫期が前日に解禁されたばかりという繁忙期。毎日6時間以上海に潜り、休憩も海中でとるというハードワークをこなしてきた後に、この発表会に駆けつけ、リアルなお話をしてくださいました。
うるま船団丸さんの奮闘ぶりはこちらをご覧ください
お話のあと、実際に沖縄うるま船団丸のもずくを使ったメニューの試食を行いました。
沖縄うるま船団丸のもずくを使った料理を考案いただいたのは、本事業の監修を務めるラ・メゾン・クレール1853オーナーシェフ小林光栄さんです。
(写真左)もずくのジュレ
(写真右)魚貝のムースともずくの新芽 もずくピューレと共に
つづいての登壇は、株式会社沖縄ティーファクトリー 代表取締役 内田 智子さん。
沖縄のテロワールをまとった紅茶づくりに挑戦し、沖縄を世界的な紅茶の産地へと育て上げようと活動している内田さんから「紅茶がもたらす売上の向上」をテーマにしたお話です。
内田さんは沖縄で紅茶を作りはじめて25年。
以前は世界三大銘茶と言われる紅茶の産地、スリランカに住んでいらっしゃいました。スリランカの土壌は沖縄と同じ「赤土」で「肥沃な土地はお金をかけて作れるが、紅茶に適した痩せた赤土は、神様しか作れない本物の土だ」とスリランカ国立研究所の職員から聞いていた内田さん。
その後、沖縄に移住し、パイナップル畑で偶然セイロン紅茶らしき木が自生しているのを見かけます。それからというもの、沖縄と紅茶について毎日のように図書館に通い調べはじめ、紅茶に適した品種の茶木が育つのは北緯29度までであり、北緯26度の沖縄は紅茶の世界的な産地として有名なアッサム地方と同じ緯度であることから沖縄が本格的な紅茶の生産に適した場所であることに気づきます。
「大発見!」と興奮し、さらに丹念に調べると、戦前から残る史料『紅茶百年史(日本茶業史資料集成 〈第19冊〉)』に、「沖縄は原種のアッサム種(「茶農林1号ベニホマレ」など)の日本唯一の産地である」と記載されていることを発見。
そこから本格的に沖縄で茶木を育てはじめ、やがて内田さんの作る紅茶が、国際味覚審査機構の優秀味覚賞で二つ星を3年連続受賞するという快挙を成し遂げます。
このように、紅茶を軸に沖縄の新しい食の可能性が広がっていくであろうお話のあと、タンニンを含む紅茶はワインのように料理とマリアージュが楽しめる特徴があること、お客様へ料理と紅茶のマリアージュの提案を行うことで、お酒が飲めない方への幸福感を提供でき、さらに売上の向上も期待できる貴重なノンアルコール飲料であることを、レストラン・ホテル関係者に向けてお話してくださいました。
内田さんの活動の詳細はこちらをご覧ください
次に「良質なヤギの生産と流通の確立」をテーマにお話しされた、合同会社美らヤギ 代表社員当山義弥さん。
沖縄の食文化を語る上で欠かせない郷土料理のひとつであるヤギ料理ですが、ヤギ肉特有のにおいが強いという理由から、昨今、若者を中心にヤギ料理離れが進んでいると言われています。
この事態に待ったをかけるべく立ち上がったのが当山さんのパートナーである玉城畜産の玉城照夫さん。玉城さんはにおいを抑えた上質な県産ヤギを飼育しています。
一方、当山さんは買い手として、育ったヤギを一頭丸々渡され、解体の知識もないまま右往左往したという経験から、流通、解体、販路拡大を整備し、ヤギ肉を食材とした新たな食体験の可能性を作り出すことに挑戦しようと、同じ志をもつ仲間と共に合同会社を立ち上げました。
当山さんはコロナ禍に東京から沖縄に戻り、2022年に那覇で「酒処よっちゃん。」というお店を開業。出店にあたり、お店の特徴を出すため沖縄食材を探っていたところ「美らヤギ」に出会い、その美味しさに惚れこみ、取引を始めたのが「美らヤギ」の流通に携わるきっかけです。
「美らヤギ」は、今帰仁村平識で玉城照夫さんが、育てています。玉城さんは沖縄県の畜産試験場で40年間勤務していたことから、家畜についてはもちろん、餌の配合知識も豊富で、3種のヤギを掛け合わせ多産系の大型なヤギを作ることに挑戦し、クセがなく、親しみやすいヤギ肉を作ることに成功しています。
玉城さんの育てている美らヤギの特徴についてはこちらで確認いただけます
クセのない良質な食肉を買いたくても、解体された状態で小分けにされていなければ、渡された飲食店は扱いにくい。ましてや北部まで受け取りに行くのも時間とコストがかかります。
クセのない「美らヤギ」を看板メニューにしたいけれど、自分のお店だけはたちゆかない。当山さんは「美らヤギ」を扱う飲食店の仲間集めをしながら、加工・流通の整備に取り組みます。名護市の食肉センターから屠畜検査後の肉を受け取り、2時間以内に久茂地に輸送。表面の除菌、水分の拭き取り等、処理を行った後、真空パックで密封し、チルドで保存する工程までを、久茂地についてから3時間ほどで完了することに成功しました。
当山さんが「美らヤギ」に関わってから3年が経過。沖縄の食材が今まで以上に注目を浴び、県内外からも食材を求めて問い合わせが増え、ヤギバブルが起きているそう。需要に対し供給が追い付かないため、価格が高騰しています。
同時に、ヤギの生産者の後継者不足の課題もあり、「美らヤギ」も玉城さんから技術と知識を引き継ぐ後継者育成を考えていく必要があるとお話しくださいました。「完全なる素人集団で始まった合同会社美らヤギも、3年経ち、このような場で発表させていただく機会を得るまでになりました。これからはヤギだけでなく、沖縄県産食材に、より一層目を向け、沖縄発展の一助となれるように尽くしていきたい」と締めくくりました。
最後に、合同会社美らヤギで、PR・マーケティング担当をしている代表社員 北澤隆明さんからお話をうかがいました。北澤さんは、この事業に携わる前、「国産和牛」「海外牛」「美らヤギ」を目隠しして味わい当てるというゲームをした際に、「美らヤギ」と「牛肉」を間違えた経験を持ち、「美らヤギはそれだけ美味しいものだ!」と信じてこの事業に参加しました。
当時、ヤギ肉の情報はインターネットにほとんど出ていなかったことから、ヤギ肉を手に入れるには、横のつながりで食品会社やローカル精肉店にあたるしか方法はありませんでした。
また購入する際にも、海外産か県産か、部位はブロックか、調理法はヤギ汁用か、ヤギ刺し用か、など大まかなくくりしかありません。そこで北澤さんは、消費者やレストランの仕入れ担当者の視点に立ち、産地、生産者、生育方法等の情報を明確に発信して、ブランドヤギとして広めることを目標に取り組み始めました。元々育て方や肉質に大きな特徴がある「美らヤギ」を発信すればブランドヤギになると信じていました。
またヤギ料理が好きな人は、ヤギ肉特有のクセや匂いを好むことから、従来のヤギ肉好きからすると「美らヤギ」では物足りない。ヤギ肉が特に好きなマーケットは中年以上の男性と言われていることから、その層以外をターゲットにすること、つまりマーケティング戦略を、「ヤギ食文化のない、ヤギ肉を苦手とする対象者とする」ことを決めました。こうして「美らヤギ」の魅力を発信するとともに、取り扱い店舗である「よっちゃん。」の認知促進を同時に行っていきます。
「美らヤギ」の認知が上がれば、店舗の集客につながり、店舗の集客が増えれば、「美らヤギ」の魅力を知る人もどんどん増える。広告費にかける予算はないので、ホームページはすべて自作。外注は一切せず、SEO(検索エンジン最適化)にも取り組みます。沖縄の食材流通は、横のつながりが非常に強く、そのつながりの中で売買が成立することが多々あります。
それは良いことでもありますが、インターネットを使えば、たくさんの人に魅力を伝えられるなど、もっと流通をサポートできる可能性がある。「今後は、自分たちが食べて美味しいと思う食材、「美らヤギ」を育てる玉城さんのように良いものを作っているが、自分たちではネット発信が難しい小規模農家の方々などとパートナーシップを結び、沖縄を盛り上げていく事が出来たら」とお話しくださいました。
100名以上にご参加いただきました。
時に感嘆の声をあげながら、食や文化にたずさわる方たちが真剣に学んでいらっしゃいました。こうして学び、つながることで沖縄は確実に強くなると感じます。
事例発表会のあとは、試食・交流会。沖縄うるま船団丸の「早摘みもずく」の試食、株式会社沖縄ティーファクトリーさんの食べ物に合わせた紅茶でのマリアージュ体験、臭みのない「美らヤギ」の実食、国頭漁協の鮮魚を使ったフレンチの一品を試食しながら、交流を深める時間となりました。以下、交流会の風景です。
紅茶をあんパンに合わせるなどのマリアージュ体験の風景
もずく料理に続き、国頭漁協のお魚の試食でも、一品を作って下さった小林シェフ
沖縄ティーファクトリーさんは、国頭漁協さんの魚料理と玉城畜産さんの美らヤギ肉料理が出てくると知り、それぞれに合う紅茶をお持ちくださったことから、急きょその場でマリアージュのご案内。タンニンを含むことからワインのようにマリアージュができる紅茶はノンアルコール需要に最適。
「美らヤギ」をつかった試食メニュー
100名以上が参加し、好評のうちに幕を閉じました。食や文化にたずさわる方たちが学び、つながることで沖縄は確実に強くなると確信した時間でした。ご参加、ご登壇、試食ブースにご協力いただきました皆様、ありがとうございました。