2021年、ユネスコ世界自然遺産に登録された、やんばる。
森に降り注ぐ豊かな雨は 木々を潤し大地に蓄えられ、やがて栄養たっぷりの湧き水となって海へ流れ込みます。
その水が「海の森」を育み、たくさんの命を育てるのです。
国頭漁業協同組合(以下 国頭漁協)は、そのやんばるの大自然に恵まれた辺土名漁港にあり、漁場では新鮮な魚が水揚げされると評判でした。
しかし、那覇から車で2時間以上という立地のため、交通輸送上 鮮度を保つことが難しく、希少で美味だけれども足の早い魚は現地で消費されるもの以外は放棄せざるを得ませんでした。
新鮮な魚は獲れるのに、流通させきれない。
その長年の悩みを解決したのが、高砂熱学工業株式会社(以下 高砂熱学)が空調技術を活かして開発したシャーベットアイス製氷機です。
さらに、その性能を有効に機能させるため、漁協・漁師みんなの協業で鮮度をキープするシステムを作り上げ、今では国内大都市洋食店、フレンチ・イタリアンなどの飲食店にも鮮魚を届けることが可能になりました。輸送の不利を克服し、鮮度を高めることで県外・国外への高値の取引を可能にした国頭漁協の取り組みを学ぶワークショップが行われました。
今回、お話しを伺った国頭漁業協同組合 業務課長 大城 力さんと
高砂熱学工業株式会社 エンジニアリング事業部 SIS事業推進部長 松平 章宏さんです。
まだ薄暗い早朝、国頭漁港へ集合。定置網での漁業体験をするための船が停泊しています。
船の前には大きなタンクが2つ。
これが高砂熱学が開発した過冷却完全解除型シャーベットアイス製氷機「SIS-HF®」です。
高砂熱学は東京駅や東京ドームをはじめとする大型施設の空調設備を手がけている企業。
この空調技術を活かして生まれた氷蓄熱システムで、ビルだけでなく、魚を冷やすことにも挑戦。海水でつくるシャーベットアイスによって、魚の鮮度保持=高鮮度流通システムの開発に成功しました。
SIS-HF®は氷蓄熱空調システムで利用されている「液体の過冷却現象(水が0℃になっても氷にならず、水のまま温度が下がり続ける現象)」を使用し、独自の過冷却完全解除技術を応用。最大でも0.05mmとなる非常に小さな氷を製氷する、水産業界初の過冷却完全制御方式シャーベットアイス製氷機です。
魚の凍結温度、凍結スピードは魚種・大きさによって様々ですが、ダイヤル一つで自由に塩分濃度の調節が可能。国頭漁協では、海水1%、氷と水50%の割合でシャーベットアイスを作っています。
また外気温により、季節ごとにタンク内の氷が溶けていく速さも違います。この「SIS-HF®」は、氷が解ける速さを季節ごとに自動演算し、タンク内の氷温度を一定に保ってくれます。
さあ、国頭漁協がこのシャーベットアイスをどのように活用し魚の鮮度を保っているのか。実際に体験していきましょう。
水揚げした魚を入れるための、船内水槽の蓋が開けられました。
先程のタンクからひかれたホースで水槽の中にドボドボとシャーベットアイスを流し込んでいきます。
水のように見えるのですが、実際にザルやバケツに入れてみますと、確かにシャーベットアイスです。
マイナス2℃を超えると魚が凍ってしまうので、マイナス1℃の状態を保つのがこのシャーベットアイスの特色。水揚げした魚をこの水槽で保管する準備が整いました。
いざ、定置網のある漁場まで出港です。
定置網が見えてきました。
定置網はかなり広く図のように仕掛けられています。
ゆっくりゆっくり、丁寧に定置網を畳み、魚を徐々に狭く囲っていきます。今日はどれくらいの魚がかかっているでしょうか?
残念ながら、今日はくちばしの鋭いダツが2尾のみ…そんな日もあります。この光景を目の当たりにして、食卓に上がる魚は大切に食さねばならないと実感。
とはいえ、『定置網内の運動場』と呼ばれる場所には200匹ほどのシイラがいましたので、明日はきっと大漁となることでしょう。
気を取り直して、以前に釣った魚を生かした状態で蓄魚している場所へ向かいます。蓄魚している魚を使い、本来、定置網で捕獲した後に行なっている作業を見せていただくことに。
魚の鮮度を保つためには、水揚げ後の処理が重要。国頭漁協では漁獲したあと、船上での3つの作業を徹底しています。
① 水揚げした魚を活け締め(脳締め)。
② 次に脱血処理です。
血液には臭みや、鮮度を低下させる物質が含まれているため、活け締め後、素早くエラに切り込みを入れ、十分な血抜きを行い、生臭み、鮮度低下を抑えています。
③ 船上でシャーベットアイスの中に入れ、急速冷却します。
中編へ続く>>>