オーナーシェフ 中田浩司さん ソムリエ 中田朋子さん(左)沖縄原産山葡萄 リュウキュウガネブリキュール「涙」(右)ワイン「涙」
沖縄原産山葡萄リュウキュウガネブの生産から醸造、そして宿泊付きレストラン『オーベルジュ・ ボヌシェール ラウー』を営むご夫妻。今回は、沖縄のワイン文化を作り出し、さらには沖縄観光の魅力作り、地域への還元に挑戦しているお二人に、2回にわたり、お話をうかがいます。
-まずはお二人の自己紹介をお願いいたします。
シェフ:中田浩司と申します。1994年頃、沖縄に大型のリゾートホテルがオープンするようになりました。
僕はホテルの洋食部門に勤めており、また沖縄にはダイビングが好きでよく旅行に来ていました。
それをホテルの親方が知っていまして、「そういえばお前沖縄好きだよな、ちょっと行ってこい」と、仕事で親方と一緒に1997年にホテルの立ち上げのために沖縄に来ました。
そしてそのまま居ついてしまい、現在に至ります(笑)。
親方は「俺は帰るけれど、お前が居たいならまだ少し居てもいいよ」とおっしゃってくださって、折角だから少し居ようかな、と思っていたら、30年経ってしまいました(笑)。
マダム:妻の朋子と申します。私は生まれも育ちも沖縄です。生粋のウチナーンチュでございます。
ホテルに就職して、そこでシェフと出会い、18年ほど勤務をしておりました。当時のホテルでは20代の若い時期はレストランやバーなど積極的に様々な部署の経験をさせてくれていたので、レストラン飲食の部門でバーテンダーをしている時に、バーデンダーの資格とソムリエの資格を取り、経験を積んで今に至っております。
シェフ:バーテンダー時代、すごい賞を取ったでしょ?
マダム:あ、はい(笑)。県内で泡盛をベースにした大会があり、エントリーさせていただいて県知事賞をいただきました。
ホテル勤務時代に、お酒の奥深い場に触れる機会と経験を与えていただき、「沖縄でもワインが作れるかも!」と今につながっていったと思います。
-シェフはホテルの料理人として本土から沖縄に移住をされていますが、沖縄食材をどう捉えていらっしゃるでしょうか?
シェフ:沖縄食材は、特に本土から見ると、全てが独特で、見たこともないものばかり。これらを料理できるのが、とっても楽しい仕事です。
周りが全部海なので、色々な魚がいて、それを間近に見られ、仕入れられるのがとても楽しくて…
もうね、初めて漁港に行った時は、並んでいる魚を、あれが欲しい!これも欲しい!といった具合に、どれも扱ってみたくてワクワクしました。
魚屋さんに注文して魚が来るのとは違って、自分で見て買えるのがとても魅力的な地域ですし、田舎ですが、それがとっても楽しくて。
今はだいぶ人が増えましたけれど、オープンした2000年はまだ本当に田舎でしたので、当時はあまり存在しなかった洋食とワインを目当てに、わざわざ来ていただくという感じでした。オープンした当時は、沖縄のアルコールと言えば、ビールと泡盛の二本立てが主流。
そこでワインという文化を少しでも広められたらと思いまして、マリアージュを楽しんでもらえる料理を作り、これまでやってきました。
-沖縄の珍しい食材をシェフの技術と経験で23年続けてきていらっしゃいますが、始めた頃と今とで変化はありますか。
シェフ:だいぶ変化しましたね。まず、町場のレストランがものすごく増えた。それにより食文化が多様化され、とても良い事だったと思います。
それまでは皆、洋食を食べるには、沖縄ではホテルに行くしかない。あとはステーキを食べるか、ピザを食べるかしか当時はできなかった。ファーストフードの洋食文化しかなかったものに、町場のレストランが少しずつ入ってきて「ワインというのがあるんだよ」と浸透しはじめ、今では当たり前になりました。
だいぶ変化をし、良かったなぁと思います。
マダム:私たちのお店もお客様からカジュアルに楽しめる空間が好まれて、今のスタイルになっていきました。オーベルジュといってもカジュアルなリゾートオーベルジュ。片肘張らずにワインも食事も楽しめる空間を目指しました。
-沖縄の独特な食材や、お勧めの調理法はありますか。
シェフ:いっぱいありますね〜。
最初に驚いたのは、ナーベーラー(ヘチマ)が食べられていることでした。本土ではお風呂の垢すりなのに、食べられるのかと驚きました。またそれが美味しいのが衝撃。
オクラやもちろんゴーヤー、冬瓜など、色々な野菜が旬になるとものすごい量が出てくる。冬瓜の水分を利用して何か煮込みを作ろうと考えてみたり、沖縄にカボチャがあることに驚き、そしてこれがピーナッツかぼちゃのようで美味しい。
沖縄食材は、色鮮やかなものも多く、赤や緑のクリスマスのシーズンも面白く、試してみて驚きの連続でした。例えばローゼルやビーツ。ビーツといえば、寒い地域であるロシア料理として有名です。
そのビーツが沖縄で採れる、しかもすぐ近所で採れるというのが面白くて、色々試してみて、真っ赤な料理が出来上がったり(笑)。ビーツは元々は沖縄食材ではないかもしれないですが、すぐ近くの「そこのお山で作っている」と思えば、楽しい限りです。また、ナーベーラーはラタトゥユに入れたり、ドロドロに溶けるので、パスタのソースにしたり、ジェノベーゼのような緑のソースの中にオクラとナーベーラーを入れて、緑と緑と緑でパスタのソースにからませたりして楽しんでいます。
スパゲッティは沖縄の皆さんに好まれると感じるので、そのようにしてさしあげると喜んでいただけますね。
-沖縄食材やシェフの料理とワインを合わせるために意識されていることはありますか?
マダム:料理は地中海沿岸をイメージしたフレンチとイタリアンを基本ベースとしてるので、沖縄の気候にもあった、暖かい地域のワインを選ぶことが多いです。また沖縄の食材は、色合いも含めて、エネルギー感のある野菜が多いですよね。紫外線を浴びるので抗酸化作用があったり、食材そのものにパワーがある。ですので、反対に強いワインというよりは、食事全体を楽しめるようなワイン選びをしています。
ワインを強く推すというよりは、食材を引き立たせるようなワイン選びがソムリエの役割ですので、お客様のお好みをお聞きしながらお勧めしています。
-沖縄は美味しい豚肉がたくさんありますが、どのようなワインをチョイスされますか。
マダム:沖縄には食材としてアグー豚があります。アグーの油はさっぱりとしてるので、ミディアムからライトぐらいの軽めの赤ワインを。あとは必ず赤ということでもなく、トマトソースも多いので、ロゼを合わせたりもします。暑い夏は、ロゼや、さっぱりとしたワインに合わせたりしますね。
-魚介と肉とでの合わせ方はやはり違いますか?
マダム:基本は、魚には白ワイン。合わせるソースにより、こってり系の白ワインなのか、それとも酸味のあるさっぱり系の白ワインなのか、それによりワインをチョイスしていきます。
豚肉でしたら、ロゼや軽めの赤ワイン、鶏肉や牛肉のステーキ、和牛の脂のこってりしたステーキは重めの赤ワイン、このようにグラデーションをつけながら、ご提案をしています。
-泡盛と洋食の合わせ方のポイントはありますか。
マダム:基本的に何にでも合うのが泡盛だと思っています。当店でお出ししている泡盛は、度数でいうと大体30度ぐらい。お食事の前半であれば水割りでお出ししたり、後半であればそのままストレートやロックでお出ししたりと、シチュエーションによって飲み方を変えたり、お好みでソーダ割にしたりしています。
-シェフはなぜ料理の道を選ばれたのですか。
シェフ:僕は千葉県船橋市の出身で、親父が近くで行われる中山競馬で勝ったらいつもお寿司を食べに連れて行ってくれました。親方が目の前で握ってくれて、かっこいいなぁと思い、最初は寿司屋になりたかった。
でもある時、帝国ホテルの村上信夫先生(帝国ホテルの初代総料理長。フランス料理を日本に広めた功労者。)が千葉県松戸市の出身で、松戸に世界の村上がいるんだと思ったら僕も洋食の世界で頑張れたらいいなと、心変わりしをしまして、そのまま洋食に入りました。
-ホテルで洋食をされてきたご縁で沖縄に来られ、その後、ご自身でお店を経営されることになりました。きっかけを教えて下さい。
シェフ:僕がコックになった時は、バブルの頃で、当時、講習を受ける機会を会社から沢山いただきました。その時に、オーベルジュ オー・ミラドーの勝又登シェフ(日本で初めてオーベルジュを始めたフレンチのシェフ。)の講習会に行き、初めて「オーベルジュというのはいったい何なのか」を聞いたんです。
ものすごい田舎にレストランを構え、田舎だからこそ、その地元の食材を使ってお客様のおもてなしをし、泊まることもできるという「すごいこと」をしている。いつか僕もオーベルジュをやりたいなと思うようになり、北谷でレストランを開いた後、2号店として、この地にオーベルジュとしてオープンをすることができました。
そして今度は、僕の考えるオーベルジュの完結編として、料理だけでなく、自分で作ったお酒も加えたいと思うようになり、「自分のオーベルジュがやっとこれで完結する!」という気がしています。
-シェフが考える「オーベルジュの完結編」としてのワイン作りだったのですね。
シェフ:はい。ワインを作りたいと単純に考えたのではなく、「オーベルジュとは何か」ということをずっと考えており、究極、自分で作った料理とお酒を飲んで楽しんでいただく、これがオーベルジュだという感覚になったのです。
-改めまして、オーベルジュとはどういう意味でしょうか?
シェフ:オーベルジュは日本で未だに浸透していないと思いますが、朝、僕はカウンターに立ち、ご宿泊されたお客様と対面でお話ししながら、朝ご飯を作ります。夜、レストランでお食事をされて、翌朝、またそのレストランで僕の作った朝ご飯を食べる。その時、やっとお客様から、『オーベルジュとはこういう意味だったのですね』とお話しなさる方がほとんどです。
宿屋についているお食事処ではなく、お食事処のやっている宿屋。だから食事がメイン、それがオーベルジュです。レストランが田舎にあり、わざわざ田舎に来てもらって、ご飯を食べてお酒を飲んでゆっくりする。
タクシーや運転代行で帰らず、そのまま寝ていくというのがオーベルジュの文化なのです。まれにオーベルジュに泊まりたくて来ましたという方はいらっしゃいますけれども、ここが泊まれるレストランだということを認識して来る方はほとんどいない。オーベルジュという文化が、日本でももっと広まればいいなと思います。
沖縄食材の美味しさを引き出し、オーベルジュ文化を追求するご夫妻。そんなお二人が沖縄原産の山葡萄リュウキュウガネブと出会ったエピソードとは。後半へ続きます。
後編へ続く>>>