【インタビュー】琉球料理 美榮

2023年11月30日

女将の石川薫さん

沖縄のビジネス街に、ホワンと温かい灯りがともる。

赤がわらの屋根を背負った屋敷のたたずまいは、まるで琉球王朝時代にタイムスリップしたよう。

 

門をくぐり、玄関までの路を彩る、沖縄らしい季節のきれいな草花達。

この日は真っ赤に咲いた花麒麟(ハナキリン)が最初に挨拶をしてくれました。

 

カラカラと玄関を開けると、フワァと部屋中に漂うお出汁の香り。

香りにつられてお腹がキュウと鳴る。

沖縄の織物、琉球絣(リュウキュウカスリ)のお着物を身にまとった女将の石川薫さんが出迎えて下さった。

 

今回はここ、琉球料理美榮女将 石川さんにお話をうかがいました。

琉球料理をかつてのままに伝えたい。

-早速ですが、琉球料理美榮さんの紹介をお願いします。

石川さん琉球料理美榮は1958年にここからすぐ近くの美栄橋町で創業し、2年後1960年にこの建物を店舗兼住宅として建て、移って参りました。

創業者は古波蔵トミ。士族の家庭に生まれ、お料理上手。料理が大好きでこのお店を始めたと聞いています。戦争でなくなってしまった資料やレシピを集め、年配の方から聞き取りを行って琉球料理の普及に励んでいました。

そのレシピ、作り方を私達は今も守り続けております。

-石川さんご自身のご紹介もお願いします。

石川さん私は、石川薫と申します。

琉球料理が大好きで、大好きで、大好きで(3回復唱される)、いまこのお店で働かせていただいております。お店での私の仕事は接客です。お客様対応をさせていただいております。

-美榮さんではどのような琉球料理を召し上がれるのでしょうか。

石川さん美榮の琉球料理は全てコース料理になっておりまして、コースの種類によって品数が変わります。宮廷料理と家庭料理を取り合わせて献立を作っています。

-お料理を提供される際に、美榮さんが心掛けていることを教えて下さい。

石川さん琉球のお料理だけではなく、やはり沖縄の空気を感じていただきたいという思いがあります。

ですので、店内には沖縄らしい工芸品、やちむん(沖縄の言葉で焼き物、陶器)や漆器、絵、紅型(びんがた。琉球染物。沖縄を代表する伝統的な染色技法の一つ。)など、沖縄伝統のものや、沖縄の作家さんのものをたくさん飾っており、沖縄文化を感じながら琉球料理を召し上がっていただけたらと思っております。

-美榮さんは老舗ということもあり、キリッとした独特の風情がありつつ、ここで石川さんのもてなしを受けると懐かしさや、ホッとする印象を受けますが、心がけていることはありますか。

石川さん木造赤瓦の建物で、ビルが建ち並ぶ中ということもあり、中に入ると自然とお客様はホッとするとおっしゃって下さるので、この環境のおかげもあると思います。

そしてやはり来てよかった、また来たいと思っていただけるようにと思ってやっております。

また、食文化は時代と共に変わっていきますし、色々な琉球料理の創作やアレンジも時代に合わせて行われて当然とも思いますが、私どもは、創業者が始めたこの伝統の味を守っていきたいという思いで、当店はアレンジを一切せずに、原点を守っていく事を心がけています。

-お召し物も、その一つでしょうか。

石川さんはい、今私が着ている着物と帯は大女将のもので、琉球かすり(沖縄の織物)です。

お客様から『沖縄の織物、素敵ね』と言っていただいた時、着ていて良かったと嬉しくなります。

元々女将のものなので、私が着ると少し袖が短いのですが、仕事着としてちょうどよく、喜んで着させて頂いています。

琉球料理が生まれた背景には、歴史が深く関与する。

-琉球料理の主に使われている食材にはどんなものがありますか?

石川さん琉球料理は豚料理が主です。豚肉とお芋の文化と言われておりまして、豚を一頭余すことなく、様々な調理方法でいただくのが琉球料理の特徴になっております。

お出汁は、かつお出汁と豚出汁を合わせて使うのが琉球料理です。

美榮では、なるべく島野菜(沖縄野菜)を使ってお料理をお出ししています。

 

また、昔の文献を見ると、琉球料理は、中国の冊封使(※)や薩摩のお役人様をおもてなしする際に出されていたものですので、「おもてなしの料理」と言えます。当時としては最高級な食材であったと思います。あるものでどれだけ美味しくおもてなしをするかと工夫を重ねて生まれた料理だと思います。

 

そのお料理をとぅんだーぶん東道盆に入れておもてなしをしました。

とぅんだーぶんとは、東の道の盆と書いてとぅんだーぶん。東が家の主人を表し、道がおもてなしをするという意味で、家の主人がおもてなしをする盆、お料理のことです。器のこともとぅんだーぶん、中に入っているお料理も含めてとぅんだーぶんと言います。昔中国の冊封使や薩摩お役人をおもてなしする際に用いられた前菜料理と言われております。形は、丸、四角、長方形、六角形、八角形と色々ございますが、共通している事は、中に仕切り皿がございまして、盛り付ける品数が奇数です。縁起を担いで割れない数字となっています。ギュウギュウに詰め込まないところに余白の美、趣があると言われています。

 

創業者は、漆器が大好きでした。売上を全部漆器に変えていたのではと思うほどたくさんあります(笑)。私たちはこの漆器を、大事にお直ししながら、器もお客様に楽しんでいただいております。

-美榮さんではお食事の最後にとてもきれいなお菓子が出てきますが、これはクッキーですか?

石川さんこちらは花ボウルと言います。

ポルトガルより伝わったと言われておりまして、沖縄だけに残るカッティング技法です。これは型を抜いたわけではなくて長方形の生地に切り込みを入れてくるくると丸めて形にしていきます。この形は藤の花を模したものと言われており、おもてなしのお菓子のひとつです。

これは私が手作りしております材料もとてもシンプルで、卵黄と小麦粉とお砂糖だけです。

-洋食的な考えの場合、バターやオイルが入りますが。

石川さんそういったものは一切入っておらず、昔ながらの伝統的な作り方です。

-クッキーに添えているリボンのようなものはなんですか。

石川さんこれはサングヮーと言いましてマジムン悪霊、妖怪の総称)が寄ってこないように、悪いものに食べられないようにという魔除けで、沖縄特有のおまじないです。ウチナーンチュのチムグクル(沖縄の人の思いやりの心)です。美榮では月桃の葉(ゲットウ。抗菌作用のある葉)で結んでいます。

お菓子や、最後にお土産でお持ち帰りいただく時などに、お家まで無事に届きますようにと願いを込めております。

-本土では四季が明確にあり、日本料理店はそれを様々なところで表現すると思いますが、この暖かい沖縄ではどうでしょうか

石川さん沖縄の野菜にも、やはり季節のものがありますので時期に合わせてお出ししています。

そして美榮では、春先から夏にかけてゴーヤージュースを、秋はシークワーサージュース、冬にはターンム(田芋)の生姜入りジュースをお食事の前にお召し上がりいただきます。

また、旧暦で動いている沖縄らしく、行事によってもお出しする料理が変わります。

例えばトゥンジージューシー(冬至じゅうしぃ)といって冬至の日はじゅうしぃ(沖縄の炊き込みご飯)食べる習わしがありますので、その日はお客様にじゅうしぃをお出ししたり、旧暦の12月8日は「ムーチー(餅)の日」といって、月桃の葉でムーチーを包んで蒸し、それを食べて1年の健康祈願をすることをご説明してムーチーをお出ししています。

繰り返しになりますが、食文化は時代とともに変わりますし、お客様の食べ物の趣向も変わりますので、創作やアレンジはされていくものだと思います。

しかしここ美榮では、創作やアレンジは他のお店に任せて、創業以来の原点を守るという方法をとっております。

-石川さんの好きな食べ物は何ですか?

石川さん私はお芋が好きです。

ですので、琉球料理の中でも芋料理が、また豚肉料理も大好きです。かつて豚肉は苦手でしたが、琉球料理を勉強したり、自分で実際作るにつれ、だんだんと美味しさが分かってきて、今では好きになりました。

-石川さんは料理教室をされているとうかがいました

石川さんはい。親子向けの料理教室をしております。市場で買い物をして、そのまま実習をするやり方で、なるべく沖縄の食材を使い、琉球料理を取り入れたお料理教室です。

-最後に泡盛の事を教えてください

石川さん泡盛は甕に入れて熟成しています。お客様には甕からすくい、カラカラ(沖縄の酒器。倒れにくい酒器が評判を呼びあちこちから貸してくれという方言「カラ」からついたといわれている)に入れて一合ずつお出ししています。

琉球泡盛独自の熟成方法で、店内にある甕に「仕次(しつぎ)」といってお酒を足しながら熟成させていきます。ワインのように年ごとにボトルインするのではなく、甕に足していきます。創業から足しておりますので、一番古いものは60年ほどの瑞穂です。飲みたいですね(笑)。

※冊封使(内閣府 沖縄総合事務局 北部国道事務所HPより抜粋

王が即位した時に琉球国王を冊封(任命)する為に、明・清代の中国皇帝が派遣した勅使。冊封を受けることで琉球の王として認められ、さらに中国皇帝の支配下であることを意味し、進貢と貿易を許されました。冊封使の琉球での滞在期間は四ヶ月から八ヶ月に及び、歓待されました。

琉球料理 美榮
〒900-0015 沖縄県那覇市久茂地1丁目8-8
098-867-1356
営業時間 11:00~15:00 , 18:00~22:00
定休日  日曜