【1泊モニターツアーレポート中編】知り、感じる食体験~いのちよろこぶ沖縄美食旅

開催日時:2026年2月16日~17日

一路那覇に戻り「比嘉邸」にて〜沖縄料理と泡盛の夕べ

沖縄の飲食文化を探求してきたご夫婦が営む、会員制の「琉球のうとぅいむち比嘉邸」へ、本日はご招待いただきました。

邸主の比嘉康二さんは飲料に精通し、奥様の直子さんは包丁人として、琉球王朝時代から続く宮廷料理や宮廷菓子の研究を重ねてこられました。

おふたりが営むこの場所は、飲食を通して沖縄の文化や歴史を体感できる特別な空間です。

到着したのは、ちょうど夕暮れどき。

久米島をたっぷり堪能し、心地よい疲れに包まれた一日の終わりに、窓からのやわらかな夕日がそっと癒してくれます。

目の前には、米島酒造の泡盛「久米島」のボトル。
「お疲れさま」と語りかけてくれているかのようで、旅の余韻が深まります。

邸主の比嘉康二さん

そして、そっと全員の前に置かれたのは、ノンアルコールの黒麹もろみ酢の天然発酵飲料。天然のアミノ酸とクエン酸が疲労回復をやさしく後押しする、酸味もまろやかな飲みやすい一杯。

「まずはお疲れさまでした」と、邸主・比嘉さんのあたたかな気遣いに癒されます。

次に食前酒として旬の果物を漬けた泡盛のサングリア。今日はタンカンとミント。4月になるとパッションフルーツなど沖縄の旬の果物に変わっていくそうです。

いよいよ今へと受け継がれる沖縄の食の歴史探訪が、スタートです。

泡盛のサングリアを堪能していると、ドーン!迫力あるメバチマグロのブロックを携え、比嘉さんが現れました。わぁーっと、皆さんから歓声が起こります。

実は沖縄は、漁場が近いことから生鮮マグロの水揚げ量が全国トップクラス。冷凍ではなく、生のマグロが一年中味わえます。

マグロブロックは上の部分ほど色が濃く、だんだん薄くなっています。上から天身、赤身、中とろ、部位ごとに丁寧に目の前で切り分けていきます。

お皿の奥から順に、天身、赤身、中とろ。

「天身」は一般的にはあまり聞き慣れない部位ですが、マグロの中心に近い赤身の中でも特に上質とされる部分だそうです。濃厚で、ねっとりとした舌触り。旨味が強い印象でした。

それに合わせるのは、先ほど久米島で訪れた 米島酒造 「美ら蛍」の水割り。大田地域でお湯や水で割って飲むことを想定して造られたと、田場さんがお話しされていたあの泡盛です。ここで早速、そのマリアージュを楽しめるとは!一同大喜び。

「中とろの脂をすっと流してくれるリセット感。そして、お米から造られる泡盛だからこそ、“ご飯の代わりに泡盛をいただく”という感覚で楽しんでほしい」と比嘉さん。

料理と酒、そして土地の物語が、ひとつにつながった瞬間でした。

続いては旬の炒め物、ゴーヤーチャンプルーとジャスミンハイボール。

「沖縄らしい、沖縄を代表する家庭料理ですよね。沖縄の奥様方や先輩方に生意気に聞こえるかもしれませんが(笑)、日本一を目指しています」と比嘉康二さん。

奥様で包丁人の比嘉直子さん

一見シンプルに思えるゴーヤーチャンプルーも、探求すればするほど奥深い世界。ゴーヤーのグラム数をきっちり量り、火入れの時間を見極め、塩とかつお節のシンプルな味付けで、丁寧に仕上げる。時間を惜しまず向き合うからこそ生まれる、計算された絶妙なバランス。

直子さんは「苦味を楽しんでください」といたずらっ子のような笑顔で調理場へ戻っていきました。

苦味を調和させ、アクセントとして引き出したい。そういうときは実は炭酸が合うのだそう。
「炭酸という刺激と苦味という刺激で相乗効果が生まれる。しかし、ただの炭酸割りだと面白くない」
と、比嘉さんらしい言葉が飛び出しました。
先ほどの直子さんのメッセージはここにつながるのですね!

ということで、福建省を訪れた際に出会った特別なジャスミン茶葉で作ったジャスミンハイボール(さんぴん茶の炭酸割り)を合わせてくださいました。
かつて中国で王侯貴族にも珍重されたという特別なさんぴん茶葉で作る、ジャスミンハイボールです。
沖縄ではジャスミンの茶葉は育てられておらず、琉球王国時代に交流のあった福建省から伝わりました。

実は、沖縄県民が親しみを込めて呼ぶ「さんぴん茶」は、時代の中で言葉が変化して生まれたともいわれています。

ジャスミン茶は中国語で「香片(シャンピェン)」。その言葉がかつての琉球で次第に変化して、いつしか「さんぴん茶」になったと言われています。
こういった琉球時代の歴史から紐解かれる食文化のお話が聞けるのも、比嘉邸の魅力です。

続いて登場したのは、ソーミンタシヤーとフェンネルを添えた泡盛のソーダ割り。

よく耳にするソーミンチャンプルーは、ツナ(シーチキン)・ポーク・野菜などを加えて“混ぜ合わせる”料理ですが、こちらのソーミンタシヤーは、「タシヤー=足し合わせる」という意味で、茹でたそうめんに出汁を加え、フライパンでサッと十五秒ほどで仕上げる即席の家庭料理だそうです。

今日採れたばかりの久米島の島らっきょうが、そっとソーミンタシヤーに添えられています。凛とした島らっきょうの旨味と、出汁を吸ったソーミンタシヤーのやさしい味わい。その組み合わせを楽しんでほしいという直子さんの思いが込められた、素朴でありながら土地の記憶がしっかりと息づく一品でした。

そして、このソーミンタシヤーに合わせて、ふわりと良い香りの立つグラスが置かれます。フェンネルを添えた泡盛のソーダ割りです。

フェンネルは日本名で「ウイキョウ」。沖縄では「イーチョーバー」と呼ばれ、「胃腸(イーチョー)」と「葉(バー)」に由来されるとも言われています。食べ過ぎや飲み過ぎでこわばった胃腸の筋肉をゆるめる弛緩作用があるとされ、琉球時代の医学書にも記されているのだとか。

ソーミンタシヤーのやさしい余韻のあとに、フェンネルの清涼感がすっと広がる味わい。身体の内側から整うような一杯でした。

次のお料理は、宮廷料理のミヌダル。

豚肉の上に黒胡麻のペーストをのせ、じっくりと蒸し上げた一品です。

「ミヌダル」という不思議な響きは沖縄の方言。標準語では「ミノタレ」だそう。
ミノは、昔の人が使っていた雨具の「蓑」。タレは、漬け込む「タレ」。
黒胡麻のタレが、まるで蓑のように豚肉を覆っている姿から名付けられたそうです。

「ぜひ、王様やお姫様の気持ちになって、ゆっくり咀嚼して楽しんでください。」と直子さん。その言葉に背筋が伸び、自然とひと口を大切にいただきます。

そして、これに合わせるのは温かいお茶。
「ずっと冷たい飲み物が続いていたので、体を冷やしすぎないように」と比嘉さんの配慮です。

冷たい前菜の間に、温かい料理をコトコト仕込み、食事の温度帯と飲み物の温度を合わせる。そうすることで、より美味しく、身体にやさしく楽しめるように──そんな思いが込められています。

この日のお茶は、乾燥させたヨモギ(沖縄ではフーチバー)に玄米茶を合わせたもの。

「玄米茶を選んだ理由はシンプルです。黒胡麻の香ばしさと、玄米茶の香ばしさ。料理と飲み物に共通する香りがあることで、口の中で混ざり合っても違和感がなく、むしろ一体となる。

さらに、温かい状態でいただくことで、豚肉の脂もやわらかくほどける。
フーチバーは薬草としても知られますが、単体では好みが分かれる香りも、アクセントとして重なると驚くほど心地よいので、ごゆっくりとお過ごしください。」

そのひと言に、料理だけでなく、この時間そのものを味わう豊かさを教えていただいた気がしました。

続いては、ラフテー。
いわゆる豚の角煮ですが、こちらはレモングラスと月桃でコトコトと煮込まれています。食べ進めるほどに、ふわりと爽やかな香りが立ち上がるのが印象的。

上にかかる黄色いタレは、甘味噌仕立て。
「豚肉は甘みととても相性がよく、旨味・甘味・香りと、幾重にも重なる“香りの層”を楽しんでほしい」と直子さん。

このラフテーに寄り添うのは、米島酒造の25度「星の灯」。

「濃い味には、濃い酒を。」
そう組み合わせることで、味覚を「ひと口目」に戻してくれる作用があるのだと比嘉さんは言います。

ラフテーをひと口。そして泡盛を、唇を湿らす程度に。ほんの少し、ちびりちびり。すると、口の中に残る甘味やコクがすっと伸び、またタレの濃さがくっきりと輪郭を持って感じられる。
「蒸留酒は“流す”のではなく、“伸ばす”存在。濃度のあるものって幸せなんですよ。美味しい。でも重ねると少しずつしんどくなる。だから泡盛は、一口目に戻してあげる役割なんです。」

泡盛が苦手だと感じる人もいるけれど、飲み方を知れば、料理を主役にしながら味覚を整え、また最初の感動へと導いてくれる存在なのかもしれない。

料理と酒が、互いを高め合うペアリングでした。

途中「なぜ“泡盛”という名前なのか?」という質問が参加者から上がりました。

すると比嘉さんは、すっと立ち上がり、高い位置から泡盛を注ぎ始めます。
みるみる立ちのぼる泡。

「“泡を盛る酒”で、泡盛。諸説ありますが、泡の立ち方でアルコール度数が分かるのは確かなんです。」

実はそれは泡盛に限った話ではなく、世界中の蒸留酒にも共通する知恵。
糖分を含まない蒸留酒は、基本的にアルコールと水の比重の違いだけで成り立っています。アルコールと水では粘性が異なるため、度数の違いが泡の立ち方や消え方、残り方に表れるのです。

度数が高いほど、泡は細かく、多く立つ。
この日注いでくださった25度は比較的やわらかく、泡も大きめ。

琉球王朝時代から、泡盛は「ちぶぐゎー」と呼ばれるこの小さな盃で、ちびりちびりと味わいながら楽しむ酒でした。ゆったりと語らいの時間を重ねるためのお酒だったのです。

しかし戦争によってその多くが失われ、泡盛も、古酒(クース)も、そして酒器までもが破壊されました。戦後は物資も乏しく、泡盛の流通量も限られていたことから、水やお湯などで割って飲む文化が主流となっていきました。

「度数が高い方がいい酒なんです。なぜか?保存ができるから。シンプルでしょう。」

暑く湿度の高い沖縄では、食べ物も飲み物も「保存」とともに生きてきました。発酵は豊かさをもたらしますが、同時に雑菌も招く。造ることができても、保存できなければ命をつなげない。

だから日本酒のような醸造酒は、この地で成熟しなかった。
しかし黒潮に乗って運ばれてくるアジアの蒸留技術は、この島に新しい酒のかたちをもたらします。
代わりに選ばれたのが“焼く”という方法、蒸留です。焼酎という言葉も、酒を焼くと書いて成り立ちます。

南の島で生まれた、保存できる米の蒸留酒。それが最終的に「泡盛」という名を名乗ることになります。そしてそれを保護し、王府の管理下で御用酒として位置づけたのが琉球王国。

「泡盛は庶民の酒ではなく、王族や特別な人々の“ロイヤルスピリッツ”。国家管理のもと、外交の場でも用いられました。ペリー来航で有名な、かのマシュー・ペリー も、琉球に来て小さな盃で泡盛を口にしたと伝えられています。」

泡の向こうに、保存の知恵と、王国の誇り、そして外交の歴史が浮かび上がるお話しでした。

素敵な箸休め。あえて手を加えず、大胆かつシンプルに、島豆腐そのまま。

次のお皿は、魚の天ぷらと、泡盛のハーブウォーター割り。

沖縄の天ぷらは、県外のそれとはまったく印象が異なります。
なかでも代表的なのが「魚の天ぷら」。面白いことに、沖縄ではあまり魚の種類を気にしません。「何の魚?」と聞きたくなりますが、揚げているおばあでさえ「わからないさぁ」と言うことがあるほどです。

かつて沖縄では、刺身を食べる文化はあまり一般的ではありませんでした。魚は陸に揚げた瞬間から傷み始めますし、氷も冷蔵庫もない時代、刺身を口にできるのは漁師など限られた人たちでした。あったとしても酢味噌で和えるなど、限られた食べ方で、それすら贅沢なものでした。

そこで生まれたのが、油で揚げる天ぷらです。沖縄にとって天ぷらは「保存食」。貴重な魚を無駄にせず、揚げてしまえばしばらく日持ちします。

「県外ではコロッケをおやつ代わりに食べることが多いそうですが、沖縄では天ぷらがおやつ。そのため腹持ちがよいよう、衣は厚めなんです。」と比嘉さん。
そうした暮らしの知恵が、沖縄独特の天ぷら文化を育ててきました。

比嘉邸では、その背景を踏まえながらも、さらに一歩踏み込みます。刺身でも食べられる良質な魚をいろいろと試し、水分量があり最も美味しく仕上がるものを選んで天ぷらにします。

今日の魚はカジキ。上質な白身魚です。

もちもちとした食感の衣にはしっかりと味がついており、カジキの旨味と重なって、噛むほどに美味しさが広がります。

そして天ぷらに合わせるのは、ハーブウォーターで割った泡盛。
月桃、レモングラス、ミント、レモンマートル。とりわけレモンマートルがもたらす柑橘の爽やかな香りがふわりと立ちのぼります。水ではなくハーブウォーターで割ることで、飲み応えがありながらも軽やかで、天ぷらとの相性も抜群です。

この後は甘味、そして締めの汁物へ。
沖縄の食文化を辿る一皿一皿が続いていきます。

甘味は、宮廷菓子の冬瓜漬とウミンスー。好みの泡盛とともに。

まずは宮廷菓子である「冬瓜漬(とうがんづけ)」。
およそ三百年前、福建省から伝わったお茶菓子で、先ほど紹介したジャスミン茶と同じ物語の流れの中にある一品です。
現地にも似た菓子がありますが、琉球ではそれを昇華させ、王に献上される特別な菓子へと発展しました。

しかし現在、その伝統を守り、百年を超えて作り続けているのは、謝花きっぱん店さんの一軒のみ。琉球王国の菓子文化を、今に伝える貴重な存在です。

その手前に添えられている練り物は、梅味噌。
沖縄では「ウミンスー」と呼ばれる、粋な宮廷のお茶請けです。冬瓜漬やきっぱんを刻み、その甘さに梅肉を合わせて酸味と塩味を加える。さらにナッツで油分を重ね、奥行きのある味わいに仕立てています。

一口食べると、甘み、酸味、塩味、そして香ばしさが重なります。
「これ、ハマりますね」と、思わず声が漏れるのも頷けます。

ちびちびとつまみながら、「濃いな、美味しいな」と感じたところで、泡盛を一口。

「今日ずっとやっていることは、泡盛で味を伸ばすこと。美味しい一口目に帰るアプローチですね。日本ではあまり“食後酒”の文化は根づいていませんが、実に理にかなっています。お腹はいっぱい。でも、ゆんたくをしながら少しずつなら、入ってしまうという豊かな時間ですね。」と比嘉さんは言います。

甘味だけでは重たくなるところを、泡盛がふわりとほどき、また次の一口へと導く。甘味と泡盛が、語らいの時間を運んできます。

締めの汁物・中身汁と、レモンマートルとジャスミン茶葉の水出し茶。

汁物を待つ間、柑橘のような香りをもつレモンマートルとジャスミン茶葉を漬け込み、水出ししたお茶が、口の中をすっと整え、これから迎える一椀への準備をしてくれました。

沖縄では「鳴き声以外は全部食べる」と言われるほど、豚を余すことなくいただく文化があります。中身汁は、そのモツを使った澄んだ汁物。お祝い事やお盆など、ハレの日に欠かせない縁起物です。

比嘉邸の中身汁は、何度も丁寧に茹でこぼしを重ね、徹底した下処理が施されています。臭みは一切なく、ひと口すすると、鰹と椎茸の出汁がきゅっと輪郭をもって立ち上がる。澄みきった旨味が、身体へと沁み渡ります。モツとは思えないほど清らかで、品のある豚モツの吸い物。この最後の温かなお椀が、満ちていたお腹と心も、ふわりと整えてくれ、まさに締めにふさわしい、やさしい余韻でした。

比嘉ご夫妻を囲み、参加者の皆さんでパチリ。

帰り際、もうひとつのおもてなしが用意されていました。

会計の際に手渡されるのは、沖縄ならではの文化「ウチカビ」。
旧盆などの行事で、ご先祖様へ供えるために焚く、冥土のお金「冥箋」です。煙にのせてあの世へ送るという、琉球やアジア圏に伝わる風習。

比嘉邸では、このウチカビに今日の金額を書き、お渡しする「ウチカビ会計」というユニークな仕掛けを取り入れています。

「この一枚、相場は五十万から百万円くらいと言われています。煙となってあの世へ送金できる、いわばキャッシュレスですね」

お葬式やお盆の最終日、ご先祖様があの世へ戻る際に焚くウチカビは、沖縄の人々の暮らしに深く根づく風習です。「天国でもお金に不自由しないように」という、沖縄のやさしい心がそこにあります。

ここでは、少し趣向が違います。

「これは誰に贈るか、わかりますよね?今日はご先祖様ではなく、未来の自分に贈るんです」

比嘉さんは続けます。

「ウチカビの欠点に気づいてしまったんです。この仕組み上、現金は持っていけないのが前提。どれだけ稼いでも、あの世へは持っていけない。無一文から始まるんですよ。リスキーでしょう?」

確かに、誰かがウチカビを焚いて送ってくれるまでの“タイムラグ”がある。それはなかなかのサバイバル。

「だから、ひとまず五十万ほど自分で送っておこうと。あの世にも口座を開設しておくんです」

外に用意された場所で、一枚一枚マッチで燃やします。煙は夜空へと昇り、やがて見えなくなりました。

沖縄の文化を伝えるだけでなく、ユーモアに満ちた最後のおもてなしでした。

余韻を残したまま比嘉邸を後にし、ホテルへ。
到着したのは、那覇の街を見渡す「ザ・ナハテラス」。

はじめて会う人との旅。はじめての体験。

心地よい疲れはあるけれど、それ以上に、満ち足りた一日だったのではないでしょうか。

今夜はゆっくりと身体を休め、それぞれの胸に残った沖縄の余韻を抱きながら、明日に備えました。