【開催レポート】無農薬ハーブ畑訪問と試食体験
〜沖縄産ハーブでもっと価値ある一皿へ〜

開催日時:2025年10月2日

ハーブが注目される以前の1991年から農薬・化学肥料不使用の安心・安全なハーブ作りに取り組んできた旧・岸本ファーム。30数年続けてきた岸本洋子さんの畑を受け継ぎ、1年ほど前から新たな屋号「和花の畑」として諏訪咲希さんが生産を続けています。
今回は諏訪さんの畑を料理人・飲食事業者の方とともに訪ね、ハーブの魅力を体感する視察交流会を開催。交流を通じて、新しい料理のヒントや県産食材として価値ある食体験創造の可能性を探りました。

(写真中央)諏訪咲希氏(和花の畑 主宰)

地域に親しまれてきた旧・岸本ファームの畑を受け継ぎ、無農薬で安心・安全なハーブやエディブルフラワーなどを栽培し、県内外の飲食店へ出荷している。育てられたハーブは豊かな風味で高く評価され、畑を訪れるシェフも多い。食やライフスタイルの提案にも取り組み、毎週水曜日には「岸本商店」として一般販売も行っている。

(写真左)角谷健氏(L’origine / ロリジン代表、本事業アドバイザー)

沖縄を拠点に、出張料理や料理・スイーツの商品開発、店舗運営などに広く携わり、生産者と店舗、地域を結ぶ活動に取り組んでいる。恩納村に1日1組限定の貸切レストラン「Bon Côté(ボンコテ)」を主宰。

(写真右)末次悦子氏(諏訪氏の お母様)

和花の畑で諏訪さんのサポートをしている。

まずは畑内のハーブのご紹介

和花の畑の特徴は、まず「無農薬で育てていること」。
そして、限られた種類をたくさん作るのではなく、「少量・多品目」でさまざまなハーブを育てていることです。

実際、これほどたくさんの種類のハーブを手がけている農園は珍しく、この日も40種類以上のハーブを、ひとつひとつ味見しながら丁寧に紹介してくださいました。

つるむらさきの花を見せながら「花も葉や茎と同様に食べることができます。可愛らしいからお皿の上も華やかになるし、ぜひ使ってもらいたいの。最近は“花も一緒につけて”とオーダーくださる飲食店さんもいらっしゃいます。」と悦子さん。

無農薬で安心・安全なハーブだからこそ、参加者の皆さんはその場で葉を摘み取り、テイスティングしながら香りや風味を確かめていきます。 「これ、苦いね」「いい香り!」と、あちこちから感想が飛び交い、活気あるひとときとなりました。

なかでも印象的だったのはステビア。口に入れた瞬間、思わず「あま~い!」の大合唱が起こり、場が一気に和やかに。 ハーブの面白さと奥深さを実感する体験となりました。

バジルだけでも4種類。一般的によく見られるスイートバジル以外に、ベトナムの代表的な麺料理のフォーやタイのガパオ炒めなどにも使われるタイバジル、シナモンの香りがするシナモンバジル、レモングラスのような香りがするレモンバジル。

試験的に育ててみているという「ゴマ」。「植物としてゴマを見るのは初めて」と参加者さんから声が上がります。

さすが料理人さん、さっそくゴマを取り出し中身を確認していました。

畑の見学がひと通り終わったあと、諏訪さんから3種類のミントが手渡されました。それぞれ香りや風味に個性があり、参加者の皆さんは葉を手に取りながら、「これが一番爽やか!」「こっちは甘みがあるね」といった感想を口にし、五感を使って違いを楽しんでいました。

左から:クールミント、スペアミント、アップルミント。

香りや味の違いを確かめながら、中には早くもアレンジのアイデアを膨らませている方の姿も。

植物の一生を活かす「全草利用」に取り組みたい。ハーブへの想いとクリエイティブの連鎖

諏訪さんが手にしているのは、長命草(ボタンボウフウ/サクナ)の花です。

ご主人は農学研究者で、長命草の葉には開花期になると、ポリフェノールの一種であるクロロゲン酸(血糖値の上昇を緩やかにしたり、内臓脂肪の減少をサポートする働きがあるとされる成分)が、通常より多く含まれることが分かってきたそうです。(※参照)

これまで、花は使わずに捨ててしまっていたそうですが、今年は捨てずにお酒などに漬けて活用できないか、今後実験を予定しているとのこと。

花の咲く時期にしか現れない栄養素が発見されることもあり、植物の一生を通じて(花から種まで)無駄なく活用する「全草利用」の取り組みができればと、諏訪さんは語ります。

参加者からは、「その花、今食べられますか?」という声も上がり、実際に味を確かめながら、新たな活用方法を模索していきたいという意欲的な姿勢が見られました。

まるでご自身のお子さんのようにハーブを慈しみ、育てている諏訪さん。
植物の一生に寄り添いながら、その効能を調べ、活用方法を探る姿勢はとても素敵で、印象的でした。

また丹精込めて育てられたハーブが料理人の手に渡り、新たな発想と創造性で活かされていくという、「育てるプロ」から「創るプロ」へのバトンリレーのような美しい関係性を垣間見ることができました。

(※「開花に伴い、生殖成長部分のクロロゲン酸の蓄積がみられるとともに葉でとても濃度が高くなることが示され、また、茎には開花前ではほとんどクロロゲン酸が含まれていないところ、開花後、明確に高い濃度となることが示された。これはおそらく葉で合成されたと考えられるクロロゲン酸が生殖成長へ移動する経路をたどることによって高くなったと考えられる。ともかく、この論文で開花に伴い、各部位の葉の重さ当たりのクロロゲン酸の濃度が増えることを示している」出典:日本園芸学会『The Horticulture Journal 87 (3): 382–388. 2018.』)

ハーブの香りや味わいを活かした料理の試食

畑を見学したあとは、本事業アドバイザー・角谷健氏による、ハーブの香りや味わいを活かした料理の試食が行われました。

①【和花の畑と沖縄の海と大地の恵み】

〈上〉レモンバジル
・スイートバジルのハーブゼリーシート
・キビまる豚の自家製ラルド ・ハママーチフレッシュ
・セーイカ塩麹マリネ
・ミントマリーゴールドフレッシュ
・ジョンさんの島ラッキョウチーズ
・諏訪さんのお母様・悦子さんのバナナ
〈下〉ハーブ黒糖パウンドケーキ(オレガノ、ハママーチ、シナモン&レモンバジル、サクナ)
※諏訪さんが育てた小麦粉(フクサヤカ)使用
※カゴにユウナを敷いて器として使用(かつて沖縄では、抗菌作用を生かして皿や手拭きに使われていた)

九層が織りなす、五味の饗宴。九層それぞれの味が順に、あるいは同時に広がり、場所ごとに異なる表情を見せてくれました。口に含むと、甘味・塩味・苦味・旨味・酸味――五味すべてが複雑に絡み合い、「口中調味」の妙を最大限に楽しんだ、そんな心地よい体験でした。

②【浜比嘉島産白髭雲丹と島南瓜の冷たいエキス】

〈上〉ミルクの泡(ライムリーフ、琉球ヒレ山椒風味)
・ゼラニウムのフレッシュ飾り
・白髭雲丹(フレッシュ塩水漬け)
・島南瓜のピューレ(諏訪さんのハーブを使用したハーブティーで仕上げ)
〈下〉器の中:勝連もずく(シークヮーサー、長命草のマリネ)

沖縄県内で養殖されている白髭雲丹の濃厚な旨味と、下に忍ばせた県産もずくのシャキシャキっとした食感。ミルクの泡にはライムリーフと琉球ヒレ山椒の香りがふわり。トッピングにはゼラニウムの花をあしらい、見た目も華やか。島南瓜のピューレは、ハーブティーで仕上げたまろやかな甘みで、雲丹のコクを引き立てます。

七輪の中は、炭とレモングラスとカレーリーフ。角谷氏が手に持っているのはつくね。

③【今帰仁アグーのブロシェット】

・レモングラス(東インド種)の串
・つくね(今帰仁アグー、県産若鶏肝、むき海老、ハイコショウ(刻み)、ピパーチ(すりおろし))
※諏訪さんが育てたユメカオリ小麦(全粒粉)をつなぎに使用。
※レモングラスの東インド種は、西インド種に比べ茎がしっかりとしているので、串として使用。西インド種は、炭とともに用い、香りづけに活かした。

レモングラスとカレーリーフの枝と一緒に香りづけされた炭で焼かれた料理からは、香ばしく爽やかな香りがふわりと立ちのぼり、あたり一面に広がっていました。また、レモングラスをつくねの串に用いることで、香りからすでに“美味しさ”が始まっているようで、食欲がそそられる体験となりました。

④【ラベンダーのおやき】

ファルス(具):キビまる豚、からし菜、ニラ、ニガナ、悦子さんのバナナ、首里味噌ウコン(玉那覇味噌をベースにウコンを混ぜて作成)、ラベンダー
※おやき生地:小麦(アヤヒカリ)。もちもちとした食感を生かしておやきに使用。
※ラベンダーの香りは、角谷氏の長野修業時代の思い出。その記憶に着想を得て、長野名物おやきをベースに考案。

「和」である味噌とハーブが有機的に溶け合い、どこかほっとする優しい味わいでした。

⑤【南国果実と和花の畑のスムージー】

・凍らせた赤ドラゴンフルーツ
・白ドラゴンフルーツ(フレッシュ)
・悦子さんのバナナ(フレッシュ)
・シークヮーサー
・和花の畑ハーブティー
※上記をミキサーにかけ、器へ移し、ハーブティーのお花ジュレと飾り花を散らして完成。

完熟ドラゴンフルーツとバナナの自然な甘みをそのまま生かした、ひんやり爽やかなスムージー。和花の畑さんが、枝でじっくり熟すまで待って収穫した果実を使用しており、砂糖を加えずとも優しい甘さが口いっぱいに広がります。
そこに添えられたのは、ハーブティーのお花ジュレ。ぷるんとした食感がアクセントとなりつつ、喉ごしも良く、全体に涼やかな印象を添えてくれます。

暑さの残る屋外イベントの締めくくりに、デザートとドリンクが一体となった、見た目にも美しい、まさに“ごほうび”のような一品でした。

角谷さんによるハーブを活用した料理の実演に、参加者の皆さんは真剣な表情でメモを取りながら学んでいました。実際に味わい、香りを感じ、体験を通して深く理解しようとする姿勢は、まさに勉強熱心そのもの。五感を使って学ぶことで、知識だけでなく自分自身の血肉にしていく。そんな前向きな学びの空気に包まれた時間でした。

「ここにいるハーブたちが大変身して、美味しい料理へと生まれ変わるのがうれしくて、料理人の皆さんはなんて創造的なお仕事をされているのでしょう」と、和花の畑の悦子さんは敬意を込めて語ってくださいました。

視察交流を終えて

諏訪さん、角谷さん、そして参加者の方にお話を伺いました。

静かに微笑みながら、一言一言丁寧に言葉を紡ぐ諏訪さん。農作物への想いがあふれています。

「今日ご参加いただいた料理人や飲食事業者の皆さんが、今後どんなふうにハーブを活用してくださるのか楽しみです。それぞれの地域にも私たちのような生産者がいらっしゃると思うので、ぜひつながっていってほしいですし、私たち生産者側も皆さんと一緒に成長していけたら嬉しいです」と話す諏訪さん。

現在はハーブのほか、小麦や大麦も有機栽培で育てているそうです。
「無農薬にこだわる一番の理由は、“社会情勢の影響を受けたくない”という思いから。農薬や化学肥料を使うと、どうしても輸入に頼る部分が出てきて、世界の状況に左右されてしまいます。地域にある資源を活用して、自分たちの手で持続可能な農業を実現できれば、自給率も上げられるし、安定した農業ができる。その大切さに、最近あらためて気づいたところです」と語ります。
スタッフからも「確かに!」という声が上がり、輸入に頼らない自給の大切さを改めて考えるきっかけとなりました。

今回、試食の料理を提案した角谷シェフ。沖縄の生産者へのリスペクトを感じます。

角谷シェフにも、試食料理に込めた想いを伺いました。
「諏訪さんが育てた県産の小麦と旬のハーブをどう活かすかを考え、フランス料理をベースに“引き算と足し算”を繰り返しました。素材の味を生かしつつ、少し挑戦的な内容にしたので、うまく伝わったかな?という不安もありましたが、新しい発見や気づきにつながっていたら嬉しいです」と話します。

沖縄で活動するようになって7年ほど。
「沖縄に来る前、仲間たちからは“沖縄って美味しいものが少ないよね”なんて言われたこともありましたが、実際に来てみると、魅力的な食材が本当に多い。ただ、それがまだ知られていないんです。料理人が地域を学び、流通の仕組みも一緒に変わっていくことで、沖縄の食はもっと豊かになるはず」と語ります。
「納得いく素材がなければ、自分から探しに行く。それが料理人の姿勢だと思っています」と締めくくりました。

山中貞之氏(ASBO STAY HOTEL内レストラン『Alo Edesse』料理長)

「普段から料理によく使っているものもありましたが、今回、初めて知るハーブも多く、とても勉強になりました。ゼラニウムなど面白いものもあり、持ち帰ってメニューに活かしたいです。できれば生産者さんのお名前も紹介しながら、お客様に伝えていけたら」と話す山中さん。
「生産者の方と直接お会いし、お話しできたことが何より大きかったです。沖縄を盛り上げるためのレストランとして、これからも活動を続けていきたい」と語ってくれました。

國府田たま子氏(株式会社タマエンタープライズ代表取締役CEO)

「私はカレーの製造・卸をしていますが、本土ではレモングラスやカレーリーフなどを“生”で手に入れるのが難しく、乾燥品を使うのが一般的。でも沖縄では生のハーブが使える。そのフレッシュさや香りの違いに驚きました」と國府田さん。
「生のハーブで作るカレーは、香りも味もまったく別物。沖縄の個性豊かな食材を活かして、カレーという親しみやすい料理を通し、沖縄の魅力をもっと多くの人に届けていけたら」と話してくれました。

沖縄の魅力作り

亜熱帯気候のもとで育つ沖縄産ハーブは、香りも味わいも豊かで、とても魅力的な食材です。そして沖縄には、昔から「医食同源」や「ヌチグスイ(命の薬)」という考えがあり、食を通して心と体を整える文化が根づいています。

この島に受け継がれてきた食文化と、ハーブが持つ効能や香り・味わいはとても相性がよく、沖縄産ハーブを料理やドリンクに取り入れることで、これまでの食体験にちょっとした新しさや彩りが加わり、より楽しく、より沖縄らしい魅力が生まれていくことと思います。

今回は、生産者さんと料理人さんが直接交流することで、ハーブの新たな可能性や使い方のアイデアがどんどん広がっていきました。今日のつながりが、「沖縄ならではの食文化」を未来へつないでいく大きな力になると感じています。
これからも皆で力を合わせて沖縄の魅力づくりを続けていきましょう!