【開催レポート】琉球秘伝の宮廷発酵食品『豆腐よう』づくりに挑戦!紅麹・発酵の可能性を探るワークショップ

開催日時:2025年9月9日

世界中の料理人たちが「発酵」に注目する今、沖縄特有の発酵食品「豆腐よう」の新たな可能性を探るワークショップが、県内の料理人や飲食事業者を対象に開かれました。

「豆腐よう」は、紅麹発酵を用いた琉球王朝時代の宮廷料理として知られ、その独特の味わいと香りで、食通や沖縄ファンに親しまれてきました。しかし近年、一部の紅麹製品の報道をきっかけに風評被害が発生し、その存続が危ぶまれています。

本ワークショップは、「沖縄の紅麹は安心・安全である」という正しい理解を深めるとともに、その美味しさを再認識する機会として開催されました。

プログラムでは、マキ屋フーズ創始者・代表取締役の金城正直氏を講師に迎え、紅麹と豆腐ようの魅力や製造過程などを学んだ後、参加者自ら「マイ豆腐よう」作りを体験。さらに、EMウェルネス 暮らしの発酵ライフスタイルリゾート総料理長・照屋寛幸氏による、豆腐ようや紅麹を使った創作メニューの試食を通して、ジャンルを問わず幅広い料理に応用できる可能性を見いだしました。

伝統的な食文化を付加価値として活かし、料理人の革新的な発想と融合させることで新たな沖縄食体験の創出を目指します。

講師:金城正直氏(株式会社マキ屋フーズ代表取締役)

琉球大学の安田正昭教授のもとで紅麹を研究し、「紅濱の唐芙蓉(豆腐よう)」などの商品開発に成功。2008年にマキ屋フーズを設立。2021年、琉球セメントの「紅濱の唐芙蓉(豆腐よう)」や「醸造酢」などの商品製造および販売を引き継ぐ。

創作メニュー担当:照屋寛幸氏(暮らしの発酵ライフスタイルリゾート総料理長)

沖縄県調理師会会長を務めるほか、琉球料理伝承人として沖縄の食を次世代へ継承するなど、様々な取り組みを行なっている。

豆腐ようとは

豆腐ようは、18世紀の琉球王朝時代に中国から伝わった「腐乳」をもとに、減塩や泡盛を加える工夫を重ねて生まれたといわれる沖縄独自の発酵食品です。

王族や高官が味わう高級料理として重宝され、秘伝として受け継がれてきた、沖縄を代表する伝統の珍味です。

島豆腐を乾燥させて水抜きしたものを原料とし、麹や泡盛などの漬け汁で発酵・熟成させて作ります。

使う豆腐は、中身が密に詰まったきめ細かい島豆腐が最適。

漬け汁は、米を発酵させて作られた紅麹(もしくは黄麹)に、泡盛と少量の塩を加え、1週間ほど寝かせて仕込みます。

麴が豆腐ようならではの風味や香り、色合いを生み出し、泡盛に漬け込むことで雑菌を抑えつつ、塩分を控え、口当たりをまろやかにします。

漬け汁で約3〜6カ月かけて熟成させると、濃厚な旨味が凝縮された豆腐ようができあがり、食べごろを迎えます。

さっそく「マイ豆腐よう」作り!

金城さんの声がけで、早速、豆腐よう作りが始まります。

今回ご用意いただいた豆腐よう作りのキットです。

左から、島豆腐を漬けこむための殺菌済みの瓶2つ、紅麹の仕込み漬汁、島豆腐の殺菌のために使用する30度以上の泡盛、2日間かけて水分を抜いた市販の島豆腐

①まず原料となる島豆腐を用意します。

豆腐を3カ月以上漬けこむには、ほどよい固さが必要です。中身が密に詰まったきめ細かい島豆腐が最適。マキ屋フーズさんのおすすめは、昔ながらの地窯で炊いた島豆腐です。

②豆腐の水分は、重石を使い2日間かけて抜きます。上記写真の島豆腐はすでに水抜き済みですが、ご自身で行う場合は、バットの上に島豆腐を置き、その上にバットと重石を乗せて水分を抜いていきます。じっくり水抜きすることで、豆腐ように適した固さになります。

マキ屋フーズさんの資料から

2日かけて水分を抜くと5㎝ほどあった島豆腐が3㎝ほどに圧縮されます。この状態の島豆腐を食べてみると、カマボコのような歯ごたえのある食感でした。

③今回は、食べ比べのために大きさの異なる豆腐ようを2種類作ります。水分を抜いた島豆腐を、2cm×2cm角と2cm×1cm角に切っていきます。

④消毒した瓶にカットした島豆腐を入れ、島豆腐が充分に浸かるまで泡盛を注ぎます。殺菌が目的のため、アルコール度数30度以上の泡盛を使用し、30〜60分ほど浸けて殺菌します。

⑤30〜60分後、殺菌のために注いだ泡盛を取り除きます。

⑥次に漬け込みです。島豆腐の重さの3倍量の漬け汁が適量であるため、秤で計量して注いでいきます。

きっちりと計量した豆腐ようは奥様に任せ、「漬け汁少なめで実験」と称し、瓶に入りきるだけの島豆腐を詰めた参加者さん。笑いが飛び交います。

⑦理想の保管温度は「室内で25度」ですが、一般的な室内では安定して保つことが難しいため、冷蔵庫で保管、熟成します。2cm×1cm角の島豆腐を入れた瓶はおよそ3カ月間、2cm×2cm角の豆腐を入れた瓶はおよそ6カ月で熟成し、豆腐ようが完成します。

豆腐ようは、王族や上流貴族の家だけで食されていた大変貴重なもので、その製造法は門外不出の秘伝とされ、庶民にはほとんど知られていませんでした。また、紅麹の製麹技術は沖縄では確立されておらず、第二次世界大戦後は、紅麹を使った豆腐ようは今のように一般的なものではありませんでした。

転機が訪れたのは1980年代。琉球大学農学部・安田正昭氏(現・琉球大学名誉教授)が、沖縄の気候や風土、素材を活かした先人たちの知恵に着目し、豆腐ようの研究を開始します。1980年代後半には、その熟成機構が解明され、培養が成功。

この培養技術が民間企業へと技術移転されるのですが、そのうちの1社が、安田教授のもとで研究をしていた金城氏の所属するセメント製造会社でした。当時は、「沖縄のセメント会社が豆腐ようの新規事業を始めた」としてメディアを賑わせたそうです。

シールを貼って完了。できあがりが楽しみですね!

豆腐ようの危機

金城さんが代表を務める株式会社マキ屋フーズは、やんばる産の食材を使用し、紅麹や醸造酢の製造・販売を行なっています。

紅麹の原料には、琉球王朝時代から米どころして知られる羽地米を100%使用。目にも鮮やかな沖縄伝統の紅麹は、紅麹菌を蒸した米に繁殖させてできあがります。

紅麹菌には、血圧上昇抑制作用があると言われる成分(GABAやロバスタチンなど)が含まれると報告されています。

しかし2024年3月、本土大手企業の紅麹サプリメントによる健康被害が発覚し、県内にも衝撃が走りました。

「紅麹」を使用する豆腐ようも大きな影響を受け、琉球料理を提供する飲食店から豆腐ようのメニューが消え、土産店でも販売中止が相次いだのです。やっとコロナの打撃から回復傾向にあった矢先、「健康被害は紅麹が原因ではない」と判明するまで、金城さんの会社も苦しい状況に置かれました。

その後、第三者検査機関による検査で「マキ屋フーズの紅麹菌には毒性がない」と明らかになり安全性は確認されましたが、依然として風評被害からは完全に立ち直れていないのが現状です。

こうした中、紅麹の安全性を正しく知っていただくため、このようなワークショップを通じた草の根的な取り組みを重ねながら、沖縄の伝統的な産物を絶やすことのないよう、地道な努力が続けられています。

豆腐ようの紅麹漬け汁の料理への活用

豆腐ようの漬け汁を加えると、グンと味に深みが出ます。魚介料理に使えば臭みを抑えたり、肉料理なら柔らかくなったりと、調理効果も抜群。漬け汁の活用は新たなメニュー開発につながり、沖縄ならではの食体験の広がりが期待されます。

この後はいよいよ、EMウェルネス暮らしの発酵ライフスタイルリゾート 総料理長・照屋寛幸さんに考案いただいた、紅麴と豆腐ようを活用した料理の実食です。

豆腐よう、紅麴漬け汁を使った創作メニューの体験

総料理長・照屋さんから本日の料理の説明です。紅麹特有の風味やコクを引き出すことを意識してメニュー開発されたそうです。実際に使ってみて、和食だけでなく、洋食や中華、パスタのトマトソースなどにも可能性があるとお話されていました。

お昼から目にも華やかな「紅麹香る琉秋会席」

お品書き。(カッコ内は豆腐よう・紅麹を活用した料理)

まずは腸活。スタートはマキ屋フーズさんのまろやかな味わい香る「紅こうじあまざけ」。

続いて、紅麹漬け汁と豆腐ようを活用したお料理をクローズアップしてご紹介します。

「海老と野菜の豆腐よう和え」

「無花果ワイン煮豆腐よう鋳込み」(左端)

「煮物 紅麹あん」

「真鯛の二色焼き 紅麹焼き(右)」

あぐーしゃぶしゃぶは、照屋総料理長が考案した「紅麹胡麻ポン酢」でいただきました。

最後に、参加者の皆さんに一人ずつ、今回のワークショップで得た学びや気づきをお話いただきました。

豆腐ようについては知ってはいるものの、「実際にどのように作られているのかを学びたかった」「これから自分の料理にどのように活用していけるか考えたい」という声も聞かれました。話題は自然と店舗や事業での活用へと広がり、皆さんの意欲的な姿勢がとても印象的でした。

ワークショップを終えて

比嘉康二氏(琉球のうとぅいむち比嘉邸 邸主)と比嘉直子氏(比嘉邸 包丁人)

沖縄の歴史と文化を体感できる、会員制のレストラン&BARを営むご夫妻。少しお時間をいただいて、お話を聞かせていただきました。

-本日のワークショップはいかがでしたか

シンプルに楽しかったです。普段は泡盛を伝える仕事をしているため、泡盛に合う食品として身近な存在である豆腐ようですが、改めて作る工程を体験できましたし、化学的なお話も聞けて勉強になりました。

―泡盛と豆腐ようの組み合わせについて

泡盛も豆腐ようも、琉球王朝時代の王族や高官のためのものであったことから、丁重に扱われていたものでした。熟成された泡盛を小さな盃でチビチビとたしなむ。濃度の濃いお酒は濃厚な豆腐ようと一緒にたしなまれました。良いクース(泡盛古酒)と良い豆腐ようを合わせる、そうした先人たちの楽しみ方はとても理にかなっていると改めて感じました。

―お料理を担当する奥様は、今回のワークショップはいかがでしたか

豆腐ようの滑らかな舌触りと濃厚なチーズのような旨味が口の中でひろがって、癒しの時間でした。そして今日いただいた海老と野菜の豆腐ようを絡めたソースにとても感銘を受けたので、私も自分なりの料理を考えてみたいと思いました。

また紅麹は魚の煮つけにしてみたいと思いました。紅麹のもつ甘みと旨味でお魚をコトコトに詰めていったら美味しそうだなと思っています。

自分で豆腐ようを作って振る舞う。余った漬け汁を活かしてさらに美味しいオリジナル料理を生み出す。そんなふうに楽しみながらお客様をおもてなしできたら、素敵ですね。

沖縄の伝統的な食文化を、体験価値へ。今日の学びを活かして、明日の沖縄の発展のために、これからも頑張っていきましょう。お疲れ様でした。