開催日:2024年11月1日
観光客で賑わう国際通りに店を構える、沖縄料理店「くにんだ」。一品一品、こだわり抜いた伝統的な琉球料理が、モダンな空間で味わえると評判です。
そのくにんだで料理人、飲食・観光事業者の方を対象に、『琉球料理伝承人』のお話や、お店特製の『ジーマーミー豆腐作り』の実践を通して、琉球料理の価値の再認識を図るワークショップが開催されました。
さらに、琉球古典音楽と食のコラボレーションで、琉球王国時代に築いた「うとぅいむち(おもてなし精神)」を体現する新たな試みを実践しました。
くにんだ那覇本店 琉球料理伝承人 下地加寿子さん「琉球料理伝承人」とは、「沖縄の伝統的な食文化」の担い手として普及啓発活動を行い、次世代への継承及び観光資源としての活用など、さまざまな取り組みを行う人を指し、沖縄県知事により認定されます。認定には、調理師または栄養士の資格を持ち、10年以上の実務経験者を対象とした「琉球料理担い手育成講座」の全カリキュラムのを受講が必要です。
下地さんからは琉球伝統料理と沖縄料理の違いが述べられました。
沖縄料理は、時代とともに変化しながら生活に密着した料理で、ポークソーセージ、コンビーフ、シーチキンなど、戦後のアメリカ文化も反映されています。
一方、琉球伝統料理は、琉球王国時代、中国の皇帝から派遣された使者である冊封使を琉球王がもてなした「うとぅいむち(おもてなし)」料理。
化学調味料を一切使わず、豚出汁、かつお出汁、しいたけの出汁、塩のみのシンプルな味付けがされている料理なのだそうです。
沖縄では、豚は鳴き声以外なんでも食べる言われ、尻尾はよく動くため濃い出汁が取れ、沖縄そばなどによく使われるそう。
また、1頭からほんのわずかしか取れない頭肉(あたまにく)は、「得も言われぬおいしさであり、一度食べてもらいたい」と下地さん。
また県では、第3木曜日を琉球料理の日と制定し、琉球料理を食する日として推奨。学校給食でも献立として提供され、琉球伝統料理の継承に力を入れています。
沖縄のてぃーあんだ料理(てぃー(手)あんだ(脂)の意。手の脂が染みこむくらい愛情を込め手を尽くした料理。)を食べてもらいたいと語られました。
くにんだ那覇本店 料理人 岡本さん、小長さん、森田さん(カウンター中の左から)
まずは、ジーマーミー豆腐のお話です。
ジーマーミー豆腐とは、落花生(ピーナツ)で作る豆腐のこと。
落花生は、インドから中国を経て、18世紀頃(江戸時代)に日本へ渡来したと言われています。栽培が始まったのは明治時代以降ですが、当時、琉球王朝時代であった沖縄ではすでに「宮廷菓子」としてジーマーミー豆腐が作れており、落花生は本土よりも早く、諸外国との国交で沖縄に伝わり、栽培されていたようです。
沖縄では伊江島の特産品として、かつては多くの畑に植えられていましたが、残念ながら作付面積は年々減少し、今ではほとんど見ることができない貴重な沖縄の豆となりつつあります。
琉球王朝時代から、落花生は「甘香く毒なし 肺を潤ほし 脾を補ひ 乾咳を治する。此物は瘡気を煩う人並に疱瘡、麻疹の禁物である。」(御膳本草〈※〉より)と記され、貴重な滋養食材とされていました。
沖縄では落花生をジーマーミーと呼び、「地豆」と書きます。地豆(ジーマーミー)と呼ばれるようになった所以は諸説ありますが、一説に、台風が地上の作物を根こそぎ倒す中、地中に実る豆や芋は大切な食料であり、そこから地豆と呼ばれるようになったと言われているそうです。
※御膳本草。琉球王府の医師である渡嘉敷親雲上通寛(とかしきぺーちん つうかん)が、尚灝王(しょうこうおう)の命を受け清朝時代の中国北京に学び、1833年に記したとされる食医学書。)
いよいよジーマーミー豆腐作りです。
落花生を蒸して、皮をむいていきます。本土にも落花生はありますが、沖縄県伊江村産の落花生で作るジーマーミー豆腐は、より香りが高いそう。
皆さん、無心で皮をむく作業です。
皮をむいた落花生と昆布出汁をミキサーにかけていきます。
今回参加の料理人さん、ご自身のお店はイタリアンだそうで、さすがです。慣れた手つきで行われていました。
ミキサーにかけた後は、濾して、これをジーマミー地とします。
くにんだのジーマーミー豆腐は、なめらかさと弾力にこだわっています。このこだわりを表現するため、粉は芋くず粉とタピオカ粉を使い、ゆっくりと長く火を通します。
ジーマミー地に薄口醬油、塩、芋くず粉、タピオカ粉を加え、ここからゆっくりと長く、ヘラで絶えず練り合わせていきます。
だんだん粘り気が出てきました。
粘りとコシがつき、表面にツヤが出始めました。
バットに流し込みます。
冷やし固め、完成です。
ジーマミー豆腐を手作りすることは、とても手の込んだ作業ですが、安心安全であり、てぃーあんだー料理だからこその優しい美味しさが味わえるのは納得です。
ジーマーミー豆腐作りを終え、いよいよ くにんだ自慢のおすすめ御膳「うとぅいむち御膳」をいただきます。
「うとぅいむち」とは沖縄の言葉で「おもてなし」のこと。琉球王朝時代、アジア諸国との交易が盛んだった沖縄は、海外からのお客様をもてなすために宮廷料理や芸能を振る舞い、海外との繋がりを強めてきました。くにんだでは、作り手の技と真心によって育まれたその文化を承継しつつ、一方で次世代の感性と掛け合わせてお迎えをする、現代版「うとぅいむち」を体現したいという思いでお客様をお迎えしているそうです。
「くにんだの御膳は、豚、かつお、しいたけの出汁、粟国の塩のみで味付けした琉球伝統料理。胃にもたれずに最後まで召し上がっていただける料理だと自信をもって言える」と琉球伝承人の下地さん。
シックなコの字型テーブルカウンター席で、琉球古典音楽の演奏と共に伝統的な琉球料理をいただくという、沖縄ならではの魅力的な食体験のスタートです。学びと共同作業の後のお食事に、自然と笑顔がこぼれます。
お食事がひと段落したころ、演奏が始まります。
琉球古典音楽野村流音楽協会師範/琉球古典音楽湛水流保存会師範/沖縄県指定無形文化財「沖縄伝統音楽湛水流」伝承者 山内真貴子さん
一般社団法人琉球伝統芸能デザイン研究室 演者会員の山内真貴子さんによる琉球古典音楽の歌三線が披露されました。
琉球王国時代から連綿と続く沖縄の伝統的な「料理」と「泡盛」そして「芸能」は、沖縄初の日本遺産として登録されたように、おもてなしのために琉球料理と共に構築されたのが宮廷芸能である琉球伝統芸能。
大きな劇場・ホールで鑑賞する事が多いかと思われますが、琉球王国時代には首里城や首里界隈のお屋敷などの小空間で上演されていたと言われています。本土では味わえない異国情緒を感じ、沖縄を五感で感じるような体験でした。
今回のワークショップにご協力いただいた「くにんだ」は、新たなアプローチで琉球伝統料理を提供するお店としてオープンし、2024年12月に1周年を迎えます。
今回のワークショップは、参加募集後、即日定員締め切りになってしまったほどの人気でした。それほど、業界から注目されているお店です。
オーナーの照屋さんは、高校卒業後、東京の大学へ進学し、大手広告代理店に就職。その後、独立し現在に至るそうです。ご自身が子どもの頃は、国際通りは地元の方が高価なものを求めてやって来ていましたが、今は、観光の方が安価なものを求めてやって来る。沖縄にどんなお店があるべきなのか?沖縄一の目抜き通りがどんな姿であってほしいのか?を考え、出店計画を練ったといいます。
料理に集中してと言わんばかりのシンプルでスタイリッシュな空間、本土の一流料理店で修業を積んだ料理人たちが、今一度、琉球伝統料理に正面から向き合い、出汁ひとつから丁寧に取って、調理をする。器には、食洗機にかけられない琉球漆器ややちむん(陶器)を使用し、一つひとつ大切に手入れをする。
まるで料亭かのような、本物の料理と器。一流店にとっては当たり前のことではありますが、それを実践していく事は並大抵ではありません。本物を、今にどう伝えていくか、どう続けていくか。
県外へ出たからこそ見えてくるもの、沖縄の本来の姿を見つめなおし、一石を投じる視点の意味は大きいと思った今回のワークショップでした。
くにんだの皆様、ありがとうございました。参加者の皆様、お疲れさまでした。
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