沖縄の木にこだわり、倒木や家の建替えなどで使われなくなった木材を再使用し、その木だけが持つ物語を作品へと昇華させる木工作家 西石垣友里子さんのつくる器が、今県内外の料理人から注目を集めています。
その魅力を深掘りするべく、西石垣さんに作品づくりについてお話を伺い、料理を引き立てる器の魅力を体感するワークショップを開催しました。
県内外で精力的に展示会を行うなど、注目の木工作家 西石垣友里子さん。
西石垣さんを独立当時から応援している、ギャラリー&ショップ『RENEMIA』代表の金城博之さんもプレゼンターとして参加。
デザイナーとして活躍しながら、沖縄の多くの作家たちをサポートしています。
お話のあとは、実際に西石垣さんの作品にお料理を盛り付けるデモンストレーションを行い、参加者の目と舌でその魅力を体感。
料理を盛り付けるのは、恩納村で予約制レストラン『BonCote』を営むロリジンの角谷 健さん。
会場は、金城さんが営むギャラリー&ショップ『RENEMIA』。
西石垣さんは、以前は家具や雑貨を扱う店舗でオフィスワーカーとして働いていました。
転機が訪れたのは27歳の頃。沖縄県工芸振興センターで経験者でなくても工芸が学べることを知り、そのまま木工の世界へ飛び込んだそう。
そんな西石垣さんのこだわりは、「使う素材は沖縄の木」であること。
大きなお皿が作りたいからと、県外から原木を取り寄せることは簡単ですが、敢えてそれをしない。
「沖縄では、沖縄の木で作ったものを 使ってもらいたい。」
西石垣さんの作品づくりは、まず「木と出会うこと」から始まります。台風で倒れてしまった木や、道を大きく阻むように成長し、切らざるを得なくなった木。
または、家を建て直すことになり、長年慣れ親しんだ木材で何か想い出を残したいと依頼を受けたときなど、その時々に声をかけてくれる人や事柄と出会い、木にまつわる想い出と対話しながら作ります。
その木と共に暮らしてきた人たちの想い出をどのように表現しようか?
ひとつひとつ楽しみながら作る西石垣さんの喜びが、作品に現れています。
台風で倒れた浦添市『仲間ンティラ』の ガジュマル。
毎週 現場へ通い、地道に解体作業を行う方たちにガジュマルの木の想い出話を聞きながら、原木となる木材を切りだしていきます。
切り倒すことになった、崖にそそり立つ首里のガジュマル。
大きく育ったガジュマルは、そのサイズと場所の関係から一度で倒すことが難しく、上から下へと徐々に切り倒され、小さくなっていきます。
ご縁でお声がかかる木には、それぞれのストーリーがあります。
西石垣さんの作品の魅力について語る金城さん(右)
金城さんは、作家たちが直接お客様に発信し触れ合える場を作りたいという思いから、ギャラリー&ショップ『RENEMIA』を立ち上げられました。
今から15年ほど前、金城さんと西石垣さんは他の工芸作家さんたちと、皆でクラフト(工芸)分野の先駆者であるフィンランドへ視察で訪れたことがあるそうです。
そこで自国の素材を大切に作品作りをしている様子を目の当たりにしたことが、西石垣さんが「沖縄の木」にこだわるきっかけになっているのだろうとおっしゃっていました。
「彼女は学生時代からこの世界に入ったわけではなく、大学時代は文学部に所属していたからなのか、作品の名付け方が情緒的。
例えば朝昼晩の食事でお皿を変えるシリーズは、『おはよう皿』『こんにちは皿』『こんばんは皿』と、とてもユニーク。模様や形状から、『お菓子のフィナンシェシリーズ』とコースターなどに名付けるなど、非常に彼女らしいです。」独立当時からずっと西石垣さんを応援してきた金城さんは語ります。
次に作品づくりの作業工程のご紹介です。
工程1_原木を用意する
工程2_粗挽き ※成形
工程3_シーズニング ※乾燥させる
工程4_湯引き ※お湯をかける
木は原木のまま放置すると、どんどん割れていきます。それを防ぐため、「粗挽き(形成)」の後、「シーズニング(乾燥)」と「湯引き(お湯をかける)」を行います。
木はまるで呼吸をするように生きていて、動くもの。放っておくと割れたり、ゆがんだり。
西石垣さんは、作業過程で“木が動きたい方向”を確認しながら、“少し動く”ごとにお湯をかけて研磨する作業をこまめに繰り返します。
都度、小さな動きに対応することで、割れにくく、器が使い手に渡ったあとも長持ちします。ゆえに、西石垣さんの作品は完成するまで時間を要することでも知られています。
庭の想い出の木で作品を作ってほしいと依頼が来た東風平の相思樹(そうしじゅ)。
切ってみると、かなり虫食いの影響を受けていました。このように、原木として扱うには状態の良くない木に出会うことも。
「どうやってやろうかな…」頭を悩ませ、処理が大変であればあるほど、最近ではそれが楽しいと語る西石垣さん。「相思樹という木は、とにかく硬い。削っていると手がすぐに痛くなります。」しかし、硬いからこそ器として使用すると風合いが出るそうで、なかなか進まない作業にイライラするのではなく、他の作品と並行して少しずつ進めるそのハードな過程こそが楽しいのだそう。
他の作家さんが避ける木こそ使う、西石垣さんです。
制作中の硬い相思樹。
とある方のご自宅の庭の木は、物干し用としてヒモが結ばれていました。いつしか木はそれを自分の一部として取り込み、一緒に成長し、木の一部となりました。
まるでイソギンチャクのような青い洗濯ヒモ。
中央の穴に、青いヒモが覗いているのが見えますでしょうか?西石垣さんは洗濯ヒモを切り落とさずに敢えて残し、その家族の庭の木の物語を活かしたまま、花器として仕上げました。依頼された方には、花器を見るたびその頃の想い出がよみがえっていることでしょう。
こちらはチェーンソーの傷跡が残る原木。あえて作品に残します。
器の裏はすべて手彫り。通称「裏石垣さん」。表からは見えないお皿の裏もこんなに美しい。見えない作業だからこそ、心を込める西石垣さん。
お話を伺った後は、いよいよ実際に西石垣さんの器を使って、料理を盛り付け、食体験です。
器を作る過程で出た木くずや原木を、西石垣さんから譲り受けたシェフの角谷さん。木くずを使い、工夫を凝らした料理の数々を提供してくださいました。
こちらはカンヒザクラの原木をスモークして10日間ほど漬け込んだ、角谷さん考案の泡盛。
木くずをパックに詰め(中央上、右寄り)、具材とともに煮込んだスープ。
西石垣さんの器に装っていきます。
ハーブをあしらったお料理も、木の器に盛ることで咲いているかのよう。
カラキの葉の上にカラキの枝で刺した、ピンチョス風のヤギと牛のお肉料理。
キッチンに置いて作業している風景も、木工食器は映えています。
木の器は、このように大小重ね合わせて使っても安心。温もりを感じます。
木くずと一緒に炊いた酢飯。
シェフ自ら巻いて下さる角谷さんオリジナル手巻き寿司。
角谷さんオリジナルちんすこう。
実際に器に盛り付けられたお料理を目と舌で楽しんで、皆さんどんどん笑顔になっていきました。
沖縄の木を使って、木のぬくもりを感じながら、沖縄で食す。「ここ沖縄で、沖縄の木を使う。それは環境に一番合っているし、自然な事。」と語っていた西石垣さん。
沖縄で生きてきた木と、木のそばで暮らしてきた人々の想い。それが形を変えて器になり、また暮らしに寄り添うという循環。人も、木も、生きてきた過程で刻まれた傷跡を含め、まるっとすべてが美しい。そう西石垣さんに認めてもらった気がして、心に響く時間でした。
ギャラリー&ショップRENEMIA来たる2024年11月20日(水)~25日(日)西石垣友里子氏の作品が、こちらで展示販売されます。今年は記念すべき10年目。
●ギャラリー&ショップRENEMIA那覇市牧志2丁目7−15https://www.renemia.com/
●西石垣友里子さん インスタグラムhttps://www.instagram.com/yuriko_nishiishigaki/
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